【特別対談】豊かな暮らしが一番の防災。――防災、防犯、加齢、そして街の未来まで「暮らし続ける」住まいの設計論

巨大地震や激甚化する風水害への備えにとどまらず、防犯や孤立、加齢に伴う身体の変化まで、私たちは日々さまざまなリスクと隣り合わせで暮らしています。

これからの「生き抜く力(レジリエンス)」を高める住まいと暮らしのあり方とは何か。ミサワホームの専門家陣と、レジリエンス研究の第一人者である林春男先生(Iーレジリエンス株式会社 顧問/京都大学 名誉教授)をお招きした特別対談の模様をお届けします。

左から:藤本(筆者・モデレーター)、秋元氏、林先生、向山氏、大竹氏、澤氏

【登壇者プロフィール】

  • 林 春男 氏(Iーレジリエンス株式会社 顧問 / 京都大学 名誉教授)
  • 向山 孝美 氏(株式会社ミサワホーム総合研究所 取締役)
  • 秋元 茂 氏(株式会社ミサワホーム総合研究所 R&D戦略室 センター長)
  • 大竹 正裕 氏(株式会社ミサワホーム総合研究所 フューチャーデザインセンター センター長)
  • 澤 修平 氏(株式会社ミサワホーム総合研究所 フューチャーデザインセンター 建築・まちづくりデザイン研究室 室長代理)
  • 【モデレーター】藤本 月穂(株式会社博報堂 ストラテジックプラニング局/レジリエントライフプロジェクト イノベーションプラナー)

1. 命と生活を止めない「シェルター」としての住まい

―― まずは、自然災害という防災の観点からお話を伺います。ミサワホーム様が提唱する、災害時にも安心の自宅生活継続を目指す設計思想「MISAWA-LCP」――いわゆる「Life-Continuity-Performance(生活継続性能)」という理念について教えていただけますか。

向山:一言で言うと、「備える」「守る」「支える」の3本柱になっています。まず「備える」の代表例は、ミサワホームの看板でもある大容量収納の「蔵」ですね。出入りしやすいフラットな収納空間に、日常の中で使って買い足すローリングストックを組み込んでいます。そして「守る」という点では、高強度のモノコック構造に加えて、制震装置「MGEO(エムジオ)」を開発しました。壁の中にダンパーを仕込み、地震の揺れを大幅に吸収する仕組みです。

秋元:このMGEO開発のきっかけは、実は2004年の中越地震でした。当時、鉄骨住宅と木質住宅が隣り合っていた現場で、構造特性の違いから壁クロスの切れ方に差が出たんですね。鉄骨は揺れることで力を逃すため構造体自体は安全なのですが、お客様にとっては「クロスが切れた=家が壊れた」というショックになってしまう。そうした住む人の心理的な安心感までしっかり守るために、木質・鉄骨問わず制震技術を導入しようと開発を進めた経緯がありますね。

向山 孝美 氏(株式会社ミサワホーム総合研究所 取締役)

―― 地震の揺れから「守る」だけでなく、その後の生活を「支える」という点ではどのような工夫があるのでしょうか?

向山:「支える」では、屋根建材と太陽光パネルを一体化した自社開発パネルなどを展開してきました。また過去には、「GAINET(ガイネット)」という先進的なシステムも作りました。これは各住宅に加速度計を設置して、地震の初期微動(P波)を捉えて即座に警報を鳴らすと同時に、地盤や建物の被災度をデータ収集するものです。全国で1,700台以上設置し、今でも独自の地震データが集まり続けています。

林:いやあ、一言で言えば「すごいな」と。シェルターの原点は雨風や外敵をしのぐことですが、MISAWA-LCPはそのサバイバル(生存)機能を極めて高度化させていますよね。さらに素晴らしいのは、揺れをしのいだ後に「そこで暮らし続けられるか」というサステイン(維持)の機能まで実装している点です。停電や断水になっても太陽光や「蔵」の備蓄で生活を支えられる。その高度なテクノロジーが、ミサワホームらしい洗練されたデザインの中に美しく組み込まれているのは本当に魅力的だと思います。

2. 地域社会や個人に起因するリスクをふまえた、住まいや暮らしの役割

―― ここからは少し視点を広げて、地域社会や個人に起因する日常のリスク、特に「防犯」や「コミュニティの希薄化」について深掘りしていければと思います。

林:私たちが取り組む「レジリエントライフプロジェクト」の大きな特徴は、実は“災害だけを考えているわけではない”ということです。人生には健康の問題、人間関係、お金、そして日常の防犯など、さまざまな困難がありますよね。一生に一度あるかないかの大災害だけに備えるのは難しいですが、「日々を快適に、楽しく生きることが、結果として災害にも強い暮らしになる」と考えれば、取り組みやすくなるはずです。

大竹:まさにそうですね。実は私自身、マンション暮らしで隣人の素性をほとんど知らないという課題感を抱えています。巨大災害が起きたときに、自分はこのマンションのコミュニティで近所と助け合えるだろうかと不安になることがあります。その点、戸建て住宅地ではご近所付き合いや、地域社会としての備えが育ちやすい環境があるように感じます。

秋元:私の地域では、PTAのソフトボールチームのような共通の関心を通じたコミュニティが活発なんですよ。親同士が顔見知りだから街で子どもたちと会っても自然と挨拶が交わされるし、大雨で川が危ないときもLINEですぐ安否確認が飛び交う。「共通の興味」があるだけで、地域のつながりはぐっと強くなります。

林 春男 氏(Iーレジリエンス株式会社 顧問 / 京都大学 名誉教授)

―― ご近所のつながりは、地域の「防犯」にも直結してくるのでしょうか?

林:行政では「防災」は総務系、「防犯」は警察系と縦割りに分かれてしまいがちですが、地域に降りてしまえばリーダーも住民も同じ人たちです。しかも、防犯は「毎日の見守りや声かけ」という日常の活動ですが、防災は年に1回の避難訓練になりがちですよね。だからこそ、防犯と防災を一体として捉え、地域の共通課題として取り組むことが、互助コミュニティを育む一番の近道だと思います。

澤:侵入窃盗犯への聴き取り調査でも、犯行を断念した一番の理由は「近所の人に声をかけられたこと」や「ジロジロ見られたこと」なんです。ミサワホームでは防犯ガラスや電気錠、IoTによる見守りシステムといったハード・機器を揃えていますが、同時に「家を外にひらく工夫」も提案しています。

―― 「家を外にひらく工夫」とは、具体的にどのような設計ですか?

澤:例えば、玄関先に7〜8畳ほどの広さを確保してご近所の皆さんが集まれる「コミュニケーションポーチ」や、趣味のアイテムや季節の室札が外からも見えやすいよう窓を配置する「住み開く家」などです。「この地域は住民同士のつながりがあり、見守りの目がある」と外に感じさせることで、街全体の防犯性能を底上げしていく。ハードの設計を通じて、ソフトな人のつながりを引き出すアプローチを大切にしています。

澤 修平 氏(株式会社ミサワホーム総合研究所 フューチャーデザインセンター 建築・まちづくりデザイン研究室 室長代理)

3. 人生100年時代に寄り添う「アップデート」する住まい

―― 突発的な災害だけでなく、加齢に伴う身体の変化など、人生の長いスパンで見たレジリエンスについてはどうアプローチされていますか?

大竹:ミサワホーム総合研究所では「人生100年時代に対応する住まいの姿(ミサワウェルネスPLAN)」を研究しています。高齢期になって体力や気力が落ち、体が家に追いつかなくなる状態は、言わば人生における「緩やかな災害」と言えます。いざ体が辛くなってからの大規模リフォームは負担が大きいため、気力や体力、資金力のある元気な段階(50〜60代)のうちに、寝室とトイレを近づける動線改修などを先行して済ませておくことを提案しています。

澤:そういった水回りや動線の改修と同時に、窓を高断熱・防犯ガラスに変えれば、ヒートショックを防ぐ「ウェルネス」と、防犯性を高める「レジリエンス」を一度に向上させることもできますね。

林:人生には「クリティカルピリオド(転換期)」があります。若年期、中年期、そして高齢期。それぞれのステージで解くべき課題が変わる中で、家も建てて終わりではなく、サイボーグのように更新(アップデート)されていくべきです。

最近では設備や見守りサービスを定額で利用できる仕組みも広がっていますが、住宅メーカーが人生の全ステージに伴走する「ライフコンティニュイティ(人生の継続性)」のパートナーになるという発想は、レジリエントライフの思想と非常に深く合致します。

大竹 正裕 氏(株式会社ミサワホーム総合研究所 フューチャーデザインセンター センター長)

4. 平時と有事を結ぶモバイル建築「ムーブコア」と未来のまちづくり

―― 住まいの枠を超えて、街や社会全体のレジリエンスを高める取り組みについても教えていただけますか。

秋元:私たちが開発した移動式コンテナユニット「ムーブコア」は、まさにその挑戦です。災害時の仮設住宅は、自治体首長の発令を経てから供給されるため、完成までに半年以上かかることがあります。その間の過酷な避難所生活を少しでも減らすため、住宅と同等の高機能なユニットを平時から活用できないかと考えました。

平時はキャンプ場のグランピング施設や河川敷の休憩所、あるいは農泊の拠点として利活用しておきます。そして、いざ災害が起きたらすぐさま被災地へ移送して、高齢者や乳幼児のいるご家族向けの応急住宅や、医療・管理拠点として活用する。道路途絶や水の確保(オフグリッド化)という課題に対しても、こうした可動式ユニットの可能性は大きいと考えています。

林:災害時だけのために莫大なコストを抱えるのは難しいですが、普段から使いながら備える「いつもと共にある形」なら実現性が高まります。「固定された所有物」という従来の住まい観を超えて、状況に応じてしなやかに移動し、姿を変えていく。ムーブコアのような取り組みは、地域社会のレジリエンスを大きく押し広げてくれると期待しています。

秋元 茂 氏(株式会社ミサワホーム総合研究所 R&D戦略室 センター長)

編集後記:
住まいから地域、人生100年へと広がるスケール感に引き込まれる一方で、「毎日の防犯こそが、最強の防災になる」という視点にはハッとさせられました。特別な備えと日常の暮らしは、決して切り離されたものではない。今日一日を楽しく豊かに暮らすことこそが、私たちが目指すべき本当のレジリエンスなのだと実感します。

文責・モデレーター:藤本月穂(株式会社博報堂 イノベーションプラナー)